We are alive

悠海ゆう(yuumi-yuu)

2.Memory

「地の守護聖ルヴァ様ですね。わたしはオスカー。よろしくお引き回し下さいますよう。」
「あー、はじめまして。わ、私は年だけはジュリアスよりも上ですが、本当はここでは一番若輩者でしてね。あなたとはそんなに離れてはいなのですよ。あ、もちろんここの時間で考えた場合ですけどね。それにしても噂どおり、力に溢れた方ですねえ。炎の守護聖としては誠に…」
「ルヴァ、そなた何を言いたいのだ?」ジュリアスが苦笑を漏らした。

「え?いえ…なんというか…始めてわたしよりも若い人がいらっしゃいましたからね。あ、ジュリアスとクラヴィスも若いんですよ。でも二人ともここでは一番古株ですし、本当に今の時代の若い方がいらっしゃって何だか嬉しいんですよ。ああ、そうそう。だからね、先輩などと堅苦しくならないで、わたしの事はルヴァとお呼びくださいね。」

「我々を引き合いに出さずともよいではないか。」

「そうだな、それにどう聞いても俺の事は年寄りだと言ってるしな。」オスカーに付き添っていた炎の守護聖が微笑を漏らした。「そんなに後輩が欲しくなるほど俺達は虐めたかい?」
 オスカーが始めに挨拶に連れて行かれた光の守護聖の執務室にたまたまやってきた彼は、その直前に(とは言っても相当前なのだろうが)就任した先輩守護聖だった。学校でも軍隊でも(多分一般社会でも)そうだが、新人にとってすぐ上の先輩というのは良かれ悪しかれ真っ先に接触のある存在だろう。そう言う意味で早々とルヴァに会ったオスカーは少なくとも人付き合いの気苦労はそれほどしなくていい場所らしいと了解した。その後間もなくやってくる新任の水の守護聖と会ってからほんの少し考えを改めたけれども。
「あの時ルヴァは今の俺と同い年だったんだな…」いつのまにか先輩より後輩の数のほうが多くなっている。
 不慣れなうちはジュリアスの監督下で仕事をしていたが、今のオスカーは聖地の警備の責任者であり、その気になれば全宇宙の王立派遣軍を動かす事もできる。これらは元々炎の守護聖に属性のようについてくる役目であるらしい。外界で軍人教育を受けていたオスカーは軍事の基本はわかっていたので、前任の炎の守護聖からは守護聖としての基本を教わった。
 実際に問題が起こった時の対処はケースバイケースで判断力を身につけるしかない。その辺りは経験の長い首座の守護聖に託され、いつしかオスカーは歴代でももっともその名にふさわしい炎の守護聖として認識されつつある。(ちょっと悪い性癖さえなければ、とうの昔にそのように呼ばれたであろう)首座の守護聖ジュリアスの片腕となり、守護聖の中堅として時には皆に行動の指示をする。
 そういった自分の能動的な仕事の面を離れた時、オスカーは思うのだ。
「仕事以外のことは…ルヴァに教わった事が多かったな」
 聖地の伝承や風物、人にまつわる話。兵法には弱いくせに、歴史でしか知らない戦争の戦況の変化を解説できたり。酒に弱いくせに、作り方や品種にまつわる言い伝えを知っていたり。もちろん仕事関係でも出張先の惑星の予備知識は王立研究院とルヴァの執務室に行けばまず事足りる。
「花なんか選んだこともないくせに、花言葉は全部出てくるしな」
 珍しい花を見つけたときは花言葉を知っておくのも宇宙一のプレイボーイの嗜みだ。俺は回数的には意外にルヴァのところへ行ってるな、と思う。もっともルヴァ自身は花は贈られることのほうが多いだろう。もちろん女性からではなく緑の守護聖や水の守護聖からに違いない。
 全然自分と違う、これほど違う人間と、先輩後輩を超えた不思議な付き合いができる関係をオスカーは貴重なものと思っていた。
 さまざまな事件が起こった。決して平和なだけの楽園ではないこと、それでも乗り越えなくてはならないことを後輩達に納得させる立場になったころ、聖地はようやく古い殻を脱ぎ捨てる時期を迎えた。外界からもたらされた新しい希望、二人の天使が現れる。




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