We are alive
悠海ゆう(yuumi-yuu)
3.Angel
「彼女を初めてみたときは、少しほっとしたんですよ。いえ、彼女はとても不安そうでしたし、私にもそれは伝わってきました。でもね、私は『あ〜、普通のお嬢さんでよかった』と思ったんですよ。すみません。彼女の力が見えなかったということではなくてですね…何といいますか…どこにでもいるような普通の生活をされていた方が至尊の冠を戴いて、普通の生活をされている皆さんに温かい目を注ぐような女王のあり方というのもいいのではないかと思いましてね。ほらずっと女王教育を受けていた方が続いてましたし。」
「…案外変化を求めるタイプだったんだな。意外だぜ。でも女王には女王としての判断力や耐えることも必要だろう。そのための女王教育だと思うが…そのあたりは考えなかったのか？」
「もちろん、執務を行う上では重要です。でも、それは新たに学べることですし私達も御手伝いできるでしょう？…というより、私は私達だからこそ支えていけると思ったんですよ。こんなことを思うなんて傲慢なのかもしれませんけど。…これまで幾多の危機を越えて来て、私は少なくとも今のメンバーなら大丈夫だと思ったんです。……らしくありませんかね？」
ほんの少し照れたようにはにかんだルヴァに「いや、そのとおりさ」と笑みを返した。
そうか、ルヴァは初めから女王になるものとして彼女を見守っていたわけか。オスカーは初めて腑に落ちた。やっと話せるような気がする。
「俺は逆だったんだ。第一印象の彼女があまりにも普通すぎて女王にはなれないだろうと思った。もっとも試験が始まって間もなく考えを改めたがな。あの育成は面白かった。こんな表現は咎められるかもしれんが、お嬢ちゃんの育成に大陸も俺達も乗せられたって気がするよ。」
「そうですね〜。結局その不思議な力（パワー）が真に求められていたのですからね〜。」
「さすがにそこまでは見抜けなかったな。」
「ほんとですね〜」
会話の暖かさにつられるように、周囲の温度も上がっていく。光の量が見る見る増えていく気がする。言ってしまおう。今のうちだ。この空気が壊れないうちに。
「…俺は…育成が始まると彼女が普通というよりむしろ幼すぎるように感じたんだ。秘められた力は凄いものがある。でも彼女自身はあまりにも幼い。幼いが…しかし、ひとたび大人の心を見つけたら…今の心を失うことなく知性と経験をそのまま上乗せしていったら素晴らしいレディに変貌するだろう。俺も伊達に数多の女性を見てはいないからな、そのくらい予想できる。しかし、時間が必要だと思っていた。」
「うんうん、そうでしょうね〜。普段なら対象年齢外とおっしゃるあなたが戸惑っているのがわかりましたよ。」
「そうか？やれやれ、俺もまだ未熟だな。……とにかく俺は心の底では彼女が十分に成長するまで女王試験が続けばいいと思っていたのかもしれん。試験が終わるまで、お嬢ちゃんと女王候補であるということがきちんと結びついていなかった。」
「あの時あなたは私のところに来て私の気持ちを確かめて行かれましたね。私は思ったのですよ。連れて逃げたいのはあなたの方じゃないかとね。わたしにわざわざ断らずとも、あなたが本気になったらそうするでしょう？でもあなたは彼女の気持ちを優先させようとして、私のところにやって来た。私はたしかに彼女に恋をしていたと思います。でも女王候補と彼女を切り離すことはできませんでした。私はそのあとあなたが彼女に告白しに行くのだろうと思っていたのですよ。……やっとわかりました。あなたは恋の熟するのを待っていたんですね。」
「それほど本気じゃなかったと言い換えてもいいんだぜ。」
「いえ、とんでもない。それでも他に気持ちは向かなかったのでしょう？わたしはあなたの気持ちは本物だと思っていましたよ。そうですか…もしかしたら気がつかれずに終わってしまうかもしれないのに彼女の気持ちが追いつくのを待とうと思っていたのですね。」
「そう言ってもらえると少し突っ張ったかいがあったというものだな。でも本当に、あんたと一緒で彼女が幸せになるならそれもいいと思っていたんだ。…もちろん今は許さないけどな。」
金色の天使が至尊の座について宇宙がめまぐるしく変わり、この宇宙は長く続くだろう安定期を迎えている。安定しすぎるがため他の宇宙との間でいろいろ軋轢も起こったが、とにかくどこの宇宙と比べてもここほど力に満ちたものはないだろう。そういえば、この安心感を実感し始めたころ…女王交代後に初めてルヴァに会ったとき、お互いがお互いに金の天使を変わらず想っていることを確認しあって妙に安心したこともあった。あの時はまだ見守っていこうという気持ちの方が強かった。